音を作ったりゲーム作ってるロリコンの駄文 since.2005.11.17~

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    奇病に塗れた世界 4001-4010

    彼が目を覚ますと、見知らぬ天井が視界に広がっていた。
     木目調、黄土色が規則正しく並び、隅の方にはエアコンが稼動している。
     (……どこだ、ここ……?)
     まず彼の脳裏に浮かんだのは、ここは一体全体どこなんだろうというクエスチョンマークだった。
     身体の上にかけられた柔らかな新品同様のシーツをどかし、これまた柔らかすぎるベッドから身を起こして部屋の中を見渡す。
     ――やはり、そのどこにも見覚えはなかった。
     家具や照明、パソコン、観葉植物、フローリング、どこかの山を描いた壁掛けの絵画。
     「ん~~?」
     窓から差し込む陽光、ベッドのそばに置かれた小さな丸テーブルに置かれた時計が朝の9時であることを示している。
     良い朝だ。
     記憶に無いくらいに目覚めの良いモーニングである。
     「あ~~……」
     窓の外にはうっそうと茂った木々たちがその身を並べ、どこからともなくトンビの間抜けな声が聞こえてきたりする。
     割りかし薄着ではあったものの肌寒くはない、エアコンのおかげもあるだろうが、季節を推測するに春か夏であろうか。
     まるで記憶に無い。
     ――そう、記憶が無かった。
     「……まじ?」
     マジだった。
     ジョークでもなんでもなく、すっぽ抜けた様に頭の中から記憶が抜け落ちていた。
     自身が何者であるのか、生まれはどこなのか、親の顔も名前も、育ってきた場所も、親友の顔も、好きな食べ物やミュージック、趣味嗜好性癖に至るまで、その全てが彼の海馬領域には無かった。
     (……なんだこの状況)
     部屋をもう一度見渡してみる。
     机にパソコン、こじゃれた照明、木目調の天井、シックな色のカーテン、恐らく北向きの窓、フローリングと自分が腰掛けたベッド。
     そして、扉が2つ。
     1つには【W.C.】とファンシーなプレートがかけられていた。
     そのドアを見てなんとなく立ち上がると、ベッドに寝ていたにもかかわらず自分は靴を履いていた。
     室内で靴とは、なんというアメリカン。
     そんな今の状況にはどうでもいいようなことを考えながら、そのまま気持ち足早にトイレのドアを開ける。
     「……」
     トイレだった。
     ついでにいうならユニットバス、洗面台、自分の物かどうかも分からない歯ブラシとコップもあった。
     ――洗面台、そう、鏡。
     鏡がある。
     綺麗に磨きあげられた鏡面に正面から向き合うと、やはりというべきか、見覚えの無い顔が映し出されていた。


     「誰だよこれ、ちくしょう……」
     鏡の中の見慣れない顔に、思わず悪態が口から漏れた。
     自分の顔。
     普通ならば、苦楽を共にしてきた自分の容姿に愛着なりコンプレックスなりが沸くものだろうが、事ここに至っては不気味さしか感じられなかった。
     唯一救いだったのはそこまで醜いルックスではなかったことだろうか。
     そこそこ整った目鼻立ちをしている。
     (これが、俺……、なのか?)
     身長は170あるかないか、少し痩せ型、どちらかと言えば華奢な方、寝起きだからか髪の毛の乱れが見える。
     ――蛇口を捻って水を出す。
     冷たい水道水を掌ですくい、顔にバシャバシャとかけゴシゴシと擦る。
     もう一度、冷水を浴びせる。
     そして顔を上げると、ミラーには見慣れぬ濡れた顔がこちらを見つめていた。
     「いやホント、誰だよお前……」
     鏡の中の自分に問いかけても答えは返ってくるはずも無い。
     顔を洗ったおかげで気分はスッキリしたが、疑問が晴れることはなかった。
     とりあえず、出しっぱなしになっていた水道を止め、しつらえられていたタオルで顔を拭いて考える。
     (ここはどこだ? 俺は誰だ? 何が起きてる? 今は何時だ?)
     トイレの中で、名前も知らない、記憶喪失で、9時だった。
     考えて考えて――はたと気づく。
     そうだ。
     分からないならば、聞けばよい。
     自分で解決できないのならば、他人の力を借りれば良いのだ。
     助けを、答えを、解決法を、誰かに乞えば良いだけの話である。
     タオルを放り出してトイレから急いで出る。
     最初に起きた部屋にはドアが2つ、窓が1つ。
     当然向かう先はもう片方のドアだ。
     ドアノブを回すと、あっけなく扉は開き、
     「……」
     彼は呆気に取られた。 


     開けたドアが独りでに閉まる。
     あえて言葉にするなら、そう――そこは非常に不自然な部屋だった。
     ジャンプしても到底手が届かないほど、今までいた部屋より数段は天井が高く、天窓からは陽光が差し込み、部屋全体はそれもあってか明るい。
     広さも相当なものだ。
     自分の部屋も1人でいる分には十分なスペースがあったのだが、ここはそれに輪をかけて大きい。
     ――そして何よりも、八角形だった。
     記憶がない彼にとっても、そのハイセンスな間取りには『異常』とか『奇抜』だとしか感じられない。
     八角形のそれぞれの辺には1つずつ扉が設けられていて、自身の出てきたドアを含めれば合計して8つのドアがある。
     そのドアも、色取りがぶっとんでいた。
     内側はきちんと茶色の木の色をしていた自分の部屋も、こちら側からみれば赤色。
     続いて時計回りに、橙、黄、黄緑、緑、青、紫と、まるで虹の様にドアがグラデーションしていた。
     しかもパステルカラー。
     部屋の壁紙は薄い暖色系ということも合いまってか頭が痛くなりそうな極彩色が目立ちに目だっている。
     ぶっとんでいる。
     ぶっとびすぎている。
     更には「グラデーションじゃねぇのかよ」と満場一致でツッコミをうけそうなことに、彼の部屋の最後の1つは白色だった。
     赤から紫へと変わり、赤と紫に挟まれた最後のドアは真っ白である。
     意味が不明な部屋だった。
     「よぅ、遅い目覚めだったな」
     ――そして中央には4人の男女がいたのだった。 


     4人――男が1人、女が3人。
     100型を超えるほどの巨大なテレビと、これまた大きなテープルを囲む様にして配置された2つのソファに、それぞれ男、女と別れて座っている。
     「これで全員そろったわけか? いやぁ男で良かったぜ。これでまた女の子だったら、オレ肩身狭すぎだろ」
     「ちょっと待ちなさいよ、まだあそこのドアだけは開いてないでしょ?」
     最初に声をあげた男――見た目はとてもチャラく、その顔に浮かべた薄ら笑いも軽薄そうで、被った帽子からはみ出た髪はロン毛で、ピアスで指輪で銀アクセでチャラチャラしていた。
     肌も色白で、どこぞのクラブでDJしていても不思議ではない風体だ。
     チャラ男と呼ぼう。
     そのチャラ男と会話した女は女で、これまた難解な服装である。
     ヨレヨレでかなり年季をかけて使い込んだであろう、所々にオイルの汚れも見られるツナギを着ていた。
     これがボディラインがでるくらいのサイズのあったものならまだしも、かなりダボっとしたツナギで、女らしさの欠片もなく、唯一の女性らしさはそのポニーテールくらいだった。
     ポニテツナギと呼ぼう。
     「たったままでは何ですし、貴方もこちらへどうぞ」
     そのポニテツナギの横の女が立ち上がり、彼を手招く。
     が、やはり異常。
     メイド服だった。
     黒縁メガネに黒髪ロング、過度ではないほどであるがフリルのついたロングスカートのメイド服、前髪は少し長めで片側を結わえる様につけているヘアピンには一輪のスズランが施されている。
     落ち着いた物腰で、服装もあいまってか笑顔がとても柔らかい。
     メイドと呼ぼう。
     「……」
     そして残った最後の1人は、女性と言うよりも少し幼さの残る少女と言った方が良いだろう。
     彼女だけが普通の服装といっていい厚手のカーディガン、なぜか膝の上にはスケッチブックと黒のマジックペンが乗せられている。
     座っていても分かるほど小柄な身長で、先ほどから一言も発していないが、こちらを一瞥しただけでその目は興味なさそうにテレビへと移ってしまった。
     少なくともテレビの音声は聞こえない。
     ボーっとしているといった風ではなく、どちらかといえばあえて他者とのコミュニケーションを拒んでいるような、そんな印象を受けた。
     無口と呼ぼう。
     「……お前ら、誰だ?」
     現状を認識して、ようやく彼が口を開く。
     異常な服装と異質な部屋に、自身のことを聞くという目的よりも、警戒心が先に立ってしまった。
     「あ~~、お前さんの疑問は尤もなんだけどよ、そいつはオレらも聞きてぇんだわ」
     「は?」
     「お前さんさ――オレらのこと、何か知らねぇか?」 


     「――つまり、全員が記憶喪失ってことなのか?」
     「簡潔にまとめると、まぁ、そうなるわな」
     チャラ男がおどけた様に両手を挙げる。
     テーブルを囲み、男、チャラ男、テレビ、ツナギ、無口、メイドと並び、皆で紅茶を楽しんでいた。
     ちなみに紅茶はメイド姿の少女がいれてくれた物である。
     「全員が全員、揃いも揃って、起きたらそれぞれの部屋で目覚めて記憶がなかった、ってわけだな、マジうけるぜ」
     「……どういうことなんだ、これ」
     「さあ? アタシも目覚めたらそこの部屋にいたし、記憶もないし、誰か居るかとこっちの部屋に来てみたらこれだもん。何が起きてるのか、こっちの方が聞きたいくらいよ」
     「私もです……」
     「……(コクリ)」
     無口少女はやはり言葉を発しなかったが、首肯だけはしてくれた。
     どうやらコミュニケーションを拒否しているわけではないらしい。
     「で、これか……」
     ソファに座り、まず目に付いたテレビの画面。
     そこには明朝体でデカデカと、文字が映し出されていた。

     『貴方たちは 閉じ込められました』

     味も素っ気もBGMもなく、ただそれだけが延々と映されている。
     「試して見たけどよ、全チャンネルこれしか映ってねぇんだぜ。ったく、手が込んでやがるよな」
     「アンタも見てみる? リモコン貸そうか?」
     「ああ……」
     ツナギ女からリモコンを借り受け、言われた通りに操作してみるが、画面が一瞬ブレる様に切り替わっても、やはりその文字が消えることはなかった。
     「閉じ込められた、か……」
     思わずボヤキが口をついて出る。
     「あ~~もう、ムカつくわね、何なのよ、閉じ込められたって。こんなの拉致監禁じゃない、犯罪よ犯罪」
     「まぁまぁ、んなにピリピリしなさんなや、ここでグダグダ言った所でフラストレーション溜まるだけだぜ? もっと気楽に行こうや」
     「……お気楽そうで良いわね、アンタ」
     ヘラヘラとおどけた調子のチャラ男を、ツナギが半目で睨み付ける。
     「おお、怖い怖い、そう睨み付けんなって。閉じ込められたっつーんなら、ちょっとは仲よくしようや」
     「誰がアンタみたいなチャラ男と仲よくなるってのよ、生理的に無理」
     「うっは、ツナギちゃんは手厳しいねぇ」
     「誰がツナギちゃんよ、誰が」
     「いや、多分キミのことだと思うが――」
     キッと睨まれてしまい、肩をすくめるしかない。
     「すまん、気を悪くしたなら謝る」
     「……いいわよ、どうせ自分の名前もわかんないんだし。けど、代わりにアンタはチャラ男って呼ぶからね」
     ツナギはチャラ男を指差し、流れる様に親指を下に向け、頬杖をつきそっぽを向いてしまった。


     「ああもうイラつくわね、そこの窓とかブチ破れないのかしら」
     ツナギが突然、ストレスからか物騒な事を言いはじめた。
     「あ~~、やめとけやめとけ、時間と労力の無駄だぜ」
     「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃない」
     「やってみたから分かんだよ」
     そう言って、チャラ男は部屋の隅を顎で示す――そこにはバラバラになったイスが転がっている。
     どうやら物騒な事を考えるのは1人だけではないらしい。
     「メイドちゃんは見てたけどよ、割かし真面目な話、こりゃマジで出られねぇぞ」
     チャラ男の言葉に、メイドに目を向けると困った様に苦笑いをした。
     「えっと……、私がここに来たら、そこのイスで窓を破ろうとしていらして……」
     「イスの方が壊れてるじゃない、アンタどんだけ力こめてんのよ」
     「強化ガラスってヤツだろ、ガラスにゃヒビ1つ入りやがらなかったぜ」
     「部屋から出てきたら、チャラ男さんが窓にイスを全力で何度もぶつけてて、その、ちょっと怖かったです」
     「ははっ、わりぃわりぃ、最初は加減してたんだけどよ、どこまでいけるかやってたらいつの間にか全力全開でイスぶつけけてたわ」
     「笑い事じゃないでしょ――目覚めた部屋の窓もハメ殺しだから、窓から出るのは無理っぽいかぁ」
     チャラ男とツナギ、そしてメイドは窓から脱出できないかと話をしている。
     しかし、それよりももっと気になることがあった。
     「……なぁ、根本的な事を聞いて良いか?」
     「んだよ?」
     「あそこの白いドアに、プレートで『EXIT』って書いてあるんだが」
     「書いてあるわね」
     「書いてありますね」
     「書いてあるわな」
     「……(こくり)」
     やはり無口はしゃべらなかった。
     「開かないのか?」
     「開いたらこんなトコでグダってないわよ」
     なるほど、納得である。
     納得ではあるが、男は立ち上がった。
     「試してきて良いか?」
     「あん? ドアが開くかどうかかって? そりゃ試す分にはいいけどよ、お前さん以外が試したから無駄――でもねぇか、実際に自分で試してみねぇと気がすまねぇこともあらぁな」
     「何言ってんのよ、もう何回も試したじゃない、誰がやったって同じ結果でしょ」
     「あ~~、まぁ、要するにオレらが信頼できるかどうかってトコだろ、最後に起きてきたのはこいつだからな」
     「は? えっと、よく分からないんだけど?」
     すると、それまで沈黙を守ってきた無口少女が、何故か膝においてあったスケッチブックとペンで、、
     『私たちが結託して、彼をだましている可能性がある』
     と書いて見せてきた。
     「無口ちゃんはもう意地でもしゃべんねぇのな……」


     「結託って――何? アタシ達を疑ってるって事?」
     「いえ、ツナギさん、それも仕方ありません、右も左も分からないのに、はい信用してくださいと言っても無理ですよ」
     「メイドちゃんまでそういうこと言う?」
     「自分で確認しておきたいんだ」
     「……わかったわよ、確認でも何でもすればしてくれば、アタシだけ悪者みたいじゃない」
     そう言ってまたそっぽを向き臍を曲げてしまったツナギに、チャラ男は苦笑いを返してくる。
     それを見届け男は立ち上がると、メイドも同じく立ち上がった。
     「あの、私も確かめてきて良いですか? この中ですと、確認してないのは私たち2人だけですし」
     「ん? ああ、そういやメイドちゃんもあのドアを確認してなかったか。おう、行け行け」
     『お達者で』
     「……ホント、無口ちゃんは喋んねぇのな」
     呆れたようなチャラ男の声に見送られ、2人は連れ立ってEXITと書かれたドアへと向かった。
     中央のテーブルからは距離にして数メートル。
     白いドア。
     白いドアノブ。
     鍵穴がポツリとある。
     男が目配せするとメイドは頷き、ドアノブを触り何度か捻ってみるが開く様子はない。
     「ダメ――みたいですね、貴方もどうぞ」
     「ああ、ありがとう」
     横に1歩ズレたメイドと代わるように、男はドアノブを回し力を込める。
     前後左右、ついでに上下にも力を加えてみたが、やはりビクともしなかった。
     「お優しいんですね」
     少し身を寄せ、メイドが小声で話しかけてきた。
     「何のことだ?」
     「この確認作業のことですよ。確認すればすぐバレてしまうような嘘、誰もつくわけないじゃないですか」
     「……まあ、普通はそうだろうな、俺も実は開いてました、なんてことは思ってない」
     「それでも貴方は確認しようとした」
     「……」
     「嘘をついていないことを確認して、どうするおつもりだったんですか?」
     メイドは微笑む。
     「そういうの、好感がもてます」
     「買いかぶりすぎだ、俺は単にここから早く出たいだけだよ」
     つまりはそういうことだった。
     全員が記憶喪失の中、信頼関係も何もないのなら、少しでも信用がおける事を積み重ねていくしかない。
     それがどんなに些細なことであろうとも、こんな状況下では何が起こるのか分かりはしないのだ。
     誰も信用しない人が、誰からか信頼を寄せられるはずがない。


     「それはそうとしてだ――やはりダメそうだな、鍵穴があるってことはどこかに鍵があるのか?」
     「そうですね、どこかに鍵があればいいんですが」
     「蹴破ってみる、ってのも1つの手だと思うが……」
     手の裏で軽く叩いてみるが、どうにも蹴破れるような軽い音は返ってこない。
     「やめておこう。あっちでバラバラになってるイスを見ると、やる気も失せる」
     「賢明ですね」
     「となると、やはり鍵、か」
     ガチャガチャと手慰みにドアノブを回してみるが、反応はかんばしくない。
     出入り口には鍵が掛かっている。
     ならば、その鍵を探すことが当面の目標となってくるだろう。
     「――えっと、念のために、私の部屋の鍵で試してみます?」
     そう言って、メイドは黄緑色の鍵をポケットを取り出した。
     「なんだ、鍵を持ってるのか、それなら一か八かでも試しておいた方が良いな」
     「……え?」
     「ん? どうかしたのか?」
     「え、その、あの、鍵、持ってないんですか?」
     「いや、持ってないが」
     男の言葉に、文字通りメイドの顔から知の気が引いていき、踵を返した。
     「皆さん! 大変です! 彼、鍵を持ってません!」



     「つまり、アレだ――お前さんは目が醒めてから、すぐに部屋から飛び出したわけだ」
     「いや、すぐじゃない、一度トイレで顔を確認したから……」
     「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ、鍵が無いってどうすんのよこれ」
     「どうもこうもねぇだろ、なるようにしかなんねぇよ」
     「どうしましょうか……」
     『注意一秒、馬鹿一生』
     「うっは、無口ちゃん毒舌だな、いや毒筆って言うのかこれ?」
     皆が当惑している中、男1人だけが蚊帳の外にあった。
     「――なあ、さっきから鍵があるとかないとか言っているが、分かる様に説明してくれ」
     「だからよぉ、鍵だよ、鍵」
     ちゃらん、とチャラ男が鍵をポケットから取り出す。
     メイドが取り出したような同型の鍵だったが、その色は紫色をしていた。
     それに続くように、無口が青色、ツナギは黄色、そしてメイドは先程の黄緑色の鍵をそれぞれ掲げる。
     「こいつはオレの部屋ん中に置いてあった、多分、他のヤツも同じだろ?」
     「そうね」
     「はい、パソコンの置いてあるデスクの上にありました」
     『同様』
     「で、この鍵は自分たちが目覚めた部屋と色が対応してやがる。オレはあそこの紫色のドアから出てきたんだが、この紫色の鍵だとそこしか開けねぇ」
     「アタシは黄色ね、やっぱり黄色の部屋しか開かなかったわ」
     『青』
     「私は黄緑ですね」
     全員が全員、鍵を持っている――持っていないのは赤色の部屋から出てきた男だけだった。
     「だから、それがどうしたんだ? そもそも俺の部屋には鍵なんて掛かってないが」
     起きてからのことを反芻する。
     部屋から出るときはドアノブを回しただけで鍵は掛かっていなかった。
     そもそも内側用のサムターンもついていなかった気がする。
     「オートロックなんだよ」
     「……は?」
     「内側からは普通に開けられるぜ? けど、ドアが閉じると自動的に鍵が掛かっちまうんだよ」
     「ホテルなどと同じですよね、基本は鍵が掛かっていて、内側からはドアノブを回すだけでロックも同時に外れる、ということでしょうか」
     「もしかしたら、ここって何かの宿泊施設なのかしらね」
     「お、その推測はアリだな、頑丈な窓といいオートロックといい、その線は濃厚かもしんねぇ」
     『防音もしっかりしてる』
     「……」
     男の顔から血の気が引いていき、慌てて赤色のドアへと走りよった。
     ガチャガチャと押しても引いても回しても、出てきた部屋の扉はびくともしなかった。
     「……」
     「お~~い、ようやく事態の深刻さが理解できたか~~?」
     「……わかりまくったよ、馬鹿ヤロウ」
     ニヤニヤと背中から聞こえてくるチャラ男の言葉に、思わず悪態がついて出る。



     振り返ってソファへと戻る。
     ニヤニヤと笑うチャラ男とは対照的に、女性陣は心配そうな顔だったことが救いだった。
     「いやぁ、ちっとは頭の回るやつかなと思ってたけど、こうなるとただのマヌケだよな、ははっ」
     「アンタは少し言葉を選んであげなさいよ、その、バカとか、……アホ、とか、……ごめん、フォローできなくて……」
     「いいさ、気持ちだけで十分ありがたい」
     同情だけで涙が出そうだった。
     「ま、当面の議題はお前さんがどこで寝るか、ってトコだ。なにせ自分の部屋に入れねぇんだからな」
     「……各部屋にベッドは1つか?」
     「少なくともオレの部屋はそうだな――お? 何々? 女子の部屋で侵食を共にしたいってか、サカってんなぁお前さん」
     「ひくわ、ドン引きだわ、アンタら」
     「あの、さすがに男女同衾というのは……」
     『間違いが起こる可能性、大』
     やはり1部屋につきベッドは1つのようだ。
     「俺は何も言ってないだろ、チャラ男の部屋は、……ダメだろうな」
     「あん? 何が哀しくて男とベッドを共にせにゃならんわけよ。それにベッド自体、2人でくつろげるほどデカくねぇだろ」
     「床にでも転がしておけばいいじゃないの」
     「それでも部屋が一緒ってのはお断りだな、そればっかりは譲れねぇわ」
     「……だろうな」
     チャラ男からしたら相部屋を断るのは当然のことだ。
     信用もクソもないこの状況下、初めて会った人間と四六時中、一緒にいるなど正気の沙汰ではない。
     「――わかった、俺はこの部屋で過ごすことにする。ソファがあるから寝るのに不便は無いだろう」
     『それでいいの?』
     「仕方ないさ、チャラ男が断る気持ちも理解できるからな」
     「悪ぃけどそうしてくれや、ああ、男同士のよしみで毛布の1枚くらいなら貸してやんよ」
     「すまん、恩に着る」
     「いいってことよ」
     これで寝床は確保できた。
     まだまだ問題が山積みではあるが、それは大きな前進の1歩となる。
     なる、と信じたい男だった。
     「あとはトイレと風呂と着替えだが」
     「ん? ああ、そこは心配ないぜ、そこのオレンジ色のトコ、キッチンとシャワー室で、でけぇ洗濯機もあらぁ」
     「……おい、鍵が無いと開かないんじゃなかったのか?」
     「そりゃ自分らの部屋と出口だけ、な。そこのドアだけは鍵がかかってねぇんだよ」
     『多分、共有スペース』
     「かもね、食材とかもおっきな冷蔵庫にびっしり入ってたし」
     「オレらの部屋にはコンロも冷蔵庫もねぇからな、食事はそこで作れってこった」
     思い返しても、自分のいた部屋には調理スペースはなかった気がする。
     なるほど、宿泊施設かもしれないという推理は当たらずとも遠からずといった所だろう。
     「調理場だけでも全員で見ておくか? 食料がどんくらいあるかもきちんと把握しておかなきゃなんねぇしな」
     「そうね」
     「……(こくり)」
     「賛成です、私もまだ見てませんし」


     「……キッチンというより、この広さはもう厨房と言って良いんじゃないか?」
     「レストラン並みの設備ですね……凄い……」
     オレンジ色のドアを抜け、5人で部屋を見渡す。
     立ち並ぶ冷蔵庫と冷凍庫、オーブンや何口もあるコンロ、その上にある換気ダクト、そのどれもがとても個人邸宅のものとは思えない大きさと量とクオリティである。
     5人全員が集まって全く狭さをカンジさせない広さ。
     むしろ多人数が同時に作業するコトを前提にされたような、まさしく『厨房』だった。 
     (共有設備か、なるほど)
     確かにドアにはロックが掛かっていなかった。
     何度か内側と外側、その両方から開けて見たが施錠される気配は無い。
     「そっちのドアはシャワールームにつながってるぜ、乾燥機付きの洗濯機もありやがる」
     「……厨房の奥にどうしてシャワールームなんだろうな?」
     「知るかよ、んなもん。つか、お前さんは実際に見ておいたほうがいいんじゃねぇ?」
     「そうだな……」
     チャラ男の言葉に同意し、指差された扉に向かう――ここもやはり鍵が掛かっていない。
     開けて中を覗くと、そこは広めの脱衣所だった。
     ドラム型のランドリーが2つにその奥は曇りガラスで仕切られている。
     その奥はシャワールームなのだろう。
     「……なんというか、至れり尽くせりだな」
     ドアをしめて感嘆の溜息をつく。
     本当にここはどういった施設なのだろうか。
     「なにこれ、オーブントースター、3つ……? うそ、凄い……」
     厨房を振り返るとメイドが驚きの声を漏らしていた。
     無口はあいかわらず一言も発さずに、床下収納を開けていた。
     「何が入ってるんだ? ……調理器具、か?」
     「……(こくり)」
     やかん、鍋、圧力釜、計量カップ、土鍋、エトセトラエトセトラ、詰めに詰め込まれていた。
     ガラッと音がする。
     視線を向けると、ツナギが人の通れそうなステンレスの引き戸を開けていた。
     「こっちが冷蔵庫――というか、コレもう冷凍庫? お肉とか魚とかかなりの量が冷凍されてるわよ」
     「どう見ても業務用じゃないか……」
     ひょいと覗きこむと、そこには霜の降りた肉が吊るされたようにズラリと並んでいた。
     流れてくる空気が氷点下のそれである。
     「で、こっちがチルド系? 野菜とか果物とか、これでもかってくらい詰めこめられてるけど」
     「びっしりだな……」
     同じくらいの大きさのチルド冷蔵庫には瑞々しい野菜たちが以下略。
     もはや何が用意されていても驚くまい、と心に思った。
     「――で、よ? 誰かコレで『何日くらい持つ』のか分かるヤツいるか?」
     「……」
     「……」
     「……」
     沈黙の帳が厨房に落ちる。
     「ズバズバと言いにくいことを言い出すヤツよね、アンタ」
     「ははっ、どうもオレぁ問題を先延ばしにしたくないタイプらしいな、さっさと現状把握しちまおうぜ」
     そう――問題は『量』だった。
     「オレたちは閉じ込められてる、いつ脱出できるかわからねぇ、ってことは、『いつまでに脱出しなきゃならねぇ』のか把握しとかなきゃだろ」
     『現状把握については、賛成』
     「だろだろ、いやぁ無口ちゃんは話が早くて助かるぜ」
     「無口ちゃん、どのくらいか分かる?」
     『現状把握については、賛成』
     スケッチブックを持ったまま固まってしまった。
     どうやらダメそうだ。
     「アタシも分かんないわね、5人分でしょ? う~~ん、どうだろ、1ヶ月分くらいかな」
     「確かにこの量なら1ヶ月くらいは持ちそう、とは思うが……」
     「大体の目安でもかまわねぇよ、オレなんか1日でどんくらい使うのかすら全然わかんねぇからな」
     「そうなのか?」
     「記憶を失う前の習慣、ってやつだろ。オレはどうみても自炊とかしねぇタイプだわな」
     「……」
     全員で納得してしまった。

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