音を作ったりゲーム作ってるロリコンの駄文 since.2005.11.17~

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    奇病に塗れた世界 4010-4020

     「あの――1ヶ月は厳しいと思います」
     「お、メイドちゃんは料理が出来る子だったか」
     「はい、料理の仕方はなんとなく覚えてます。レシピとかも普通に浮かんできますし」
     「記憶を失う前はホントのメイドさんだったのかもね、メイドちゃん」
     「1ヶ月もたない、ってのはどうしてだ?」
     「えっと……恐らく、野菜系がダメになるんじゃないかと。いくらチルド室に入れても足の速いものは2週間くらいで食べられないと思います」
     「そうか、なるほど野菜か」
     「始めは野菜を中心にしていっても、段々メニューが狭まってきます。それに男性2人が入ってますから、切り詰めて3週間、20日前後かと」
     「20日かよ、短いのか長いのかわかんねぇな」
     『それだけあれば、なにかしら打開策はでてくるはず』
     「そう願いてぇもんだよ」
     無口の楽観的な言葉に、チャラ男は肩をすくめる。
     「――改めて量を書き出して置きましょうか? なんだか私が料理当番になりそうですし」
     「おう、だな、オレらの生命線になるわけだし、食材メモっといて損はねぇだろ」
     「アンタのつまみ食い防止にもなるしね」
     「うっは、あいかわらずツナギちゃんは手厳しいわ、いつになったらデレてくれんのよ?」
     「デレるとか頭おかしいんじゃない、アンタ」
     チャラ男とツナギのやりとりに、男は少し考え込む。
     「あの……? どうかしました? 難しい顔をされてますけど」
     「あ、いや、それはあと1人くらい増えても、20日はもつか?」
     「え、それはどういう……?」
     メイドが驚いた顔をする。
     「あと1人ってどういうこと? さすがにこいつが2人分食べるようなデブには見えないけど?」
     「ああ、それは――」
     『緑色のドア、まだ開いてない』
     代わりに無口が答えを書いて差し込んでくれる。
     チャラ男の評価の通り、やはり無口は話が早い、頭の回転が良いようだ。
     「そっか、まだ1人いるかもしれないのよね、すっかり忘れてたわ」
     「ん~~、どうなんだろな、ここにいる全員は起きてきてるのに、まだ眠ったままっつーのはショージキ考えにくいぜ?」
     「それでも居たら後々困るからな――6人分として考えておいてくれないか?」
     「は、はい、わかりました。多分、それだと2週間くらいかと」
     「2週間か……」
     もう1人いるかもしれない、という可能性は、男にとってありがたかった。
     閉鎖空間、限られた食料。
     あまり想像したくないことだが、仲間うちでの奪い合いはなるべく避けたいというのが本音だ。
     少しでも節制する、その方向でまとまるならそれに越したことはない。
     2週間、誰とどう過ごしていくか、それによってここから出られるのかどうかが決まる。
     ……重いモノが男の胃に落ちる。
     「ねぇ、アンタ、部屋からすぐ出た、って言ってたわよね」
     「ん? そうだが」
     「ってことはパソコンも見てないってことよね?」
     「あ、ああ……」
     思い返すと、部屋にはパソコンがあった。
     モニタもついていて動いているのは遠目でみたが、確認を後回しにしていたのだ。
     今となっては部屋に戻れないので、確認のしようがないわけだが。
     「あ~~、そっちの話もあったんだよな」
     『むしろ、そちらの方が重要』
     「そう……ですね」
     「?? 何の話なんだ? パソコンがどうかしたのか?」
     「別段、どうってことでもないんだけどな?」
     頬をポリポリと掻きながら、チャラ男がなぜか済まなそうに切り出す。
     「オレたちゃ全員、『病気もち』なんだとよ」
     「………………は?」
     男の間抜けな声が厨房に響いた。 


     5人全員が元の部屋に戻っていた。
     中央のテーブルには、大量のサンドイッチが載せられている。
     「お、うめぇなこりゃ、やっぱメイドちゃんってメイドとして働いてたんじゃねぇの?」
     隣に座ったチャラ男が豪快にサンドイッチを頬張っていた。
     男性2人、向かい合って女性3人、この配置がデフォルトになりつつある。
     「ホント……なんだか同じ女として悔しいけど、実際おいしいわ……」
     『絶賛』
     「ありがとうございます、足の早そうな葉物を多目に使っちゃいましたけど――あの、お口に合いませんでしたか?」
     メイドが、1人喋らない男に話を振ってくる。
     どうやら何も感想を言わないことを不安に思ったらしい。
     「ん……美味いよ、真面目な話、商品として売られていてもおかしくないレベルだと思う」
     「そ、そうですか、よかった、難しい顔をされているから、嫌いなものでもあったのかと思いました」
     「いやいやメイドちゃん、この状況下で好き嫌い言うヤツはいねぇだろうよ」
     『いたら飢えて死ね』
     「……無口ちゃん怖ぇよ、目がマジだよ、毒舌すぎんよ」
     さすがのチャラ男も腰が引けていた。
     ――あの後、とりあえず食材をメモると同時に、皆の朝食兼昼食にしようということになった。
     男としては、病気云々もきになるけれど、腹が減ったのも事実。
     メイドが料理を、他の4人で食材をメモっていった。
     チャラ男の言った『病気持ち』という言葉は気になったが、やることはやってから、話の続きはその後で、と判断して今に至る。
     時刻は11時半。
     サンドイッチは本当においしかった。
     「――それで、さっき言ってたのはどういうことなんだ? 全員が病気に掛かっているといっていたが」
     「どういうこともなにも、そのまんまの意味だぜ。あ、ちと違うか? オレら全員が病気にかかってるんじゃねぇな」
     「全員じゃないのか?」
     「だからよ、オレら全員、じゃなくてだな」
     『人類、全てが、病気』
     「……? は……?」
     無口の示すスケッチブックの内容に、一瞬思考が追いつかない。
     男は3回ほど、その文字を見直してしまった。
     「人類、全て?」
     「そそ、無口ちゃんの言った通り、オレたちゃ、全員、人類仲よく、病気なんだとよ」
     「それは、何だ……その……人には寿命があって、そういう意味では等しく病気を患っている、みたいなマクロ的な意味か……?」
     「なんつー壮大な解釈してんだよ」
     「そのままの意味、アタシたち人間は全員、『奇病』を患ってるんだって。勿論、ここにいるアタシたち5人も含めて、だけど」
     「……」
     「そりゃ信じられねぇかもしれねェけど、ホレ」
     そういって、チャラ男が4つ折にされた紙をポケットから取り出して突きつける。
     黙って受け取り、そのまま広げる。
     それは何かの文章を印刷したものだった。

     『人類は全員、奇病に冒されている。ここに閉じ込められた貴方たちもまた病気を持っている』
     『今はまだ信じられないかもしれないが、まずはこのコトを念頭にして行動して欲しい』
     『信頼の証として、この部屋の鍵を置いておく。この部屋はオートロックで、一度出ると部屋には鍵が掛かってしまう。決して無くさぬよう注意して欲しい』
     『そして、貴方の奇病だが』

     そこで文面は途切れていた。
     「……これは?」
     「パソコンに表示されてたテキストを印刷しといただけだぜ?」
     「アタシにも見せて」
     「おう、お前らも確認してくれや」
     ツナギに紙を渡すと、ざっと目を通して頷いた。
     「うん、コピペみたいにそっくり、アタシのトコも同じだったわ。メイドちゃんと無口ちゃんも見る?」
     「はい――そう、ですね、ほぼ同じかと」
     「……(こくり)」
     紙はメイド、無口にも渡り、彼女たちもまた首を縦に振る。
     「アンタ、よく印刷なんてしてたわね。プリンターあったけど、そんなこと思いつきもしなかったわ」
     「最初の文のトコ見てみろよ、『貴方たち』ってあるだろ? なら他にも誰かいるんだろと思って確認用にな」
     「へぇ……、用意がいいわね」


     「……この続きは?」
     「おいおい、そいつはちと勘弁してくれや。てめぇがどんな病気かなんて言いふらすモンでもないだろうよ」
     「そう? アタシは別に言っても良いと思うわよ?」
     「私は……ちょっと……」
     その辺りについては意見が分かれているようだ。
     「……無口はどう思う? 誰かに教えたいと思うか?」
     『メイドとチャラ男に同意、言いたくない』
     「ちょ、なに? またアタシが悪いみたいな流れ?」
     ツナギは入り口が施錠されているか否かのことをまだ根に持っているようだ。
     「いや、ツナギちゃん、誰が悪ぃとかそういうことでもなくてな」
     「別にいいじゃない、こんな病気のことくらい教えても、どうせ高々が――」

     「言うんじゃねェよ、バカツナギ!」

     ビリビリと窓ガラスが揺れるほどの怒号が響いた。
     突然の激昂に、場が止まる。
     声を張り上げたのはチャラ男だった。
     「あ~~、すまん、ストップだ、ツナギちゃん、それ以上は言わねぇ方が良い、つか言わないでくれ」
     「……いきなり、怒鳴らないでよ」
     「わりぃわりぃ、いやぁキャラ崩壊寸前だったぜ、バカとか言って悪かったな」
     本気の怒りを向けられ若干ツナギは面食らっていたが、チャラ男がボリボリと頭をかいてチャラけた雰囲気に戻ったのを見て、安堵の息を漏らす。
     「構わないわよ――で、何? バカチャラ男はそうまでしてこいつに病気のことを教えたくないわけ?」
     「構わないっつった割には、言葉にトゲがバシバシ生えてんじゃねぇか」
     「うっさいわね」
     「こいつに教える分には良いんだよ、何せ自分の病気のことも知らねぇしな」
     「悪かったな、何も知らなくて」
     「オマエらケンカ腰になんなよ、まぁ先に怒鳴ったオレがわりぃんだけど」
     苦笑しか返せないチャラ男であった。
     「――ちょっと待って、『自分の病気』? どういうこと?」
     「あ、ツナギちゃん、やっぱ勘違いしてたか、でけぇ声だして止めといて正解だったな」
     「アタシたち全員、同じ病気じゃないの?」
     「いんや、それぞれで病気の症状は違うと思うぜ? なんつーか、オレの病気の内容があまりにもユニークだからよ、こんなんが全員だとはちょっと考えられねぇ」
     「全員、それぞれ違う病気なのか……?」
     「多分な。言いたくないって言ったメイドちゃんと無口ちゃんもそうなんだろ?」
     「……はい、自分の病気は皆さんと違う症状だと、私も思います」
     『同意、私からの視点では、恐らくではなく絶対に違う』
     絶対と断言する無口に、チャラ男が目を細める。
     「ふむ、無口ちゃんは割りと深刻そうな奇病みてぇだな――ま、オレらは全員病気だっつっても、その症状がそれぞれ違うってこった」


     「みんな違う病気だってことは分かったわ。それで、アンタのはどんな病気なのよ?」
     「だから言わねぇって言っただろ、つか正確には言わねぇ方が良いんだよ」
     「どうしてよ?」
     「あの……、私は皆さんがどうしてもと仰るなら、自分の奇病がどんなものか教えても良いです」
     「ほら、メイドちゃんもこう言ってるじゃない、アタシだって教えても良いわよ?」
     「けどメイドちゃんも積極的にゃ教えたくねぇんだろ? 無口ちゃんにしちゃ、むしろ教えたくない派閥だとオレは睨んでるぜ?」
     『あまり言いたくはない』
     「ホレ、無口ちゃんもこう言ってるしな、無理強いすることもねぇだろ」
     「……」
     自分の病気がどんなものか知らない男は黙ってるしかなかったりする。
     割とカヤの外であった――とはいえ、その外からでも、色々と頭の中でまとめることはできる。
     むしろ、外から見ている分、この中で最も正確に状況が把握できているのは男だろう。

     自分の病気について、チャラ男と無口は言及したくないようで、そこには何かしらの理由がありそうだ。
     対してツナギは言及したい派で、なんというか、隠し事をするくらいならいっそのこと、という性格なのだろう。
     そしてメイド、基本的には言及はしたくない。
     したくはないが、皆が諍いを起こすくらいなら自分が貧乏くじを引く事を厭わない、そういう態度である。

     「アタシは無理強いとかされなくても教えるわよ?」
     「だからよぉ、ツナギちゃんはそれで良いのかもしんねぇけど、教えられたほうが困るんだって」
     「……教えられた方が、教えられた事で引け目を感じるってことか?」
     ようやく口を挟むことができた。
     「そういうこったな、特にお前さんは1番引け目を感じまうだろ」
     「まぁな……」
     「ちょっと、別にアタシは皆の病気が知りたくて自分の奇病をバラすわけじゃないわよ。何ならアタシだけバラして、他の皆は秘密でもいいわ」
     「そういうつもりじゃねぇってことは分かってんだよ、なんつったら分かってくれっかなぁ……」
     困ったようにチャラ男が苦笑する。
     『ツナギだけ、特別扱いになる』
     「そう、それだ! いやぁ無口ちゃん助かるぜ」
     「ツナギだけ、病気を教えたって優位性ができるってことか?」
     「優位性ってアタシはそんなこと思って――」
     「そのつもりがなくたってそう思っちまいそうだろ、特にメイドちゃんとかよ?」
     「あ、うん、そうね、そうかも」
     「あの、なんだかすいません……」
     なぜか謝ってしまうところがメイドがメイドである所以だろうか。
     「だったらいっそのこと、全員が自分の病気をバラせば――ってそれも駄目か」
     ツナギが名案を思いついたかのように顔を晴らしたが、その晴れた表情はこちらを見て直ぐに消えてしまった。
     「アンタは自分の病気がどんなのか知らないんだっけ」
     「そういうこった、こいつだけが『教えられない』ってことになるだろ?」
     「アンタ本当に厄介ね、病気のことも部屋のことも」
     「……すまん」
     今のままでも十分引け目を感じてしまう男であった。
     ツナギは溜息混じりに首をふる。
     「分かったわ、アタシは教えないし、皆も教えない、それで良いんでしょ」
     「理解してくれたようで何よりだぜ」


     議論も収束したかに見えたが――そこにスッと無口が手を上げる。
     『前提。そもそも全員の症状が違うかどうか、確かめておいた方が良い』
     「あ~~、そこだけはオレも何とかして確認しておきてぇんだが、いかんせんこの状況じゃなぁ」
     議論の発端は、全員の症状が違うのだろうという、あくまで推測から始まったものだ。
     無口は何故か確信しているようだが、チャラ男には確信がないようだった。
     「難しい……ですね、自分の症状を言わずに、他の人の症状と違うことを確かめる……」
     「いや、そもそもそこを確かめる必要があるのか?」
     「オレとしちゃあ確かめといた方が後々楽なんだよなぁ」
     「楽……?」
     何かチャラ男の言葉にひっかかりを感じた。
     そのひっかかりを深く考える前に、ツナギが声を上げてしまう。
     「――自分の症状を言わなきゃ良いんでしょ? 簡単じゃない」
     「何か良い案があるんですか?」
     「まぁね、んと、アンタは駄目だから、チャラ男、ちょっと立ってみて」
     「んだよ棒からヤブに」
     「いいから立つ! アンタさっきアタシに怒鳴ったでしょ、これで許してあげるから」
     「それを言われると辛ぇな……これでいいか?」
     チャラ男がその場に立ち上がる。
     「そうね、じゃあちょっとそっちに移動して」
     「ん? こうか?」
     指示された通り、チャラ男がツナギの指差す方に移動する。
     ソファから3歩ほど離れた所でボリボリと頭を掻く。
     「で、これが何なワケよ?」
     「そしたら3回くらいジャンプしてみて」
     「……ま、いいけどよぉ、ほっ、とっ、うりゃ」
     言われた通りにジャンプするチャラ男だった。
     「次はテーブルの周りをぐるっと周って」
     「人使いの荒いこって」
     軽口を言いながらも素直にツナギの言葉にチャラ男は従う。
     メイドに目を向けると視線が合ったが、彼女も首を傾げている。
     「じゃ今度は逆周りに走って」
     「ぅお~~い、ツナギちゃん、全く意味が分からねぇぞ? いつまで続くんだコレ?」
     「はいはい、文句は後で全部聞いて上げるから、さっさと走る走る」
     「わぁったよ、ったく……」
     しぶしぶではあるがジョギングをするようにテーブルを逆向きに走る。
     『なにこれ』
     「……俺に聞かれてもな」
     「何なのでしょう……?」
     唐突に置き去りにされた3人には何が何だか分からなかった。
     「こんなもんか?」
     「うん、ありがと、じゃ本番ね」
     「まだあんのかよ!?」
     「こんなの単なる準備運動、ちゃんと身体ほぐしておきなさいよ」
     「うっは、ただの準備運動で見世物にされたんかよオレ……勘弁してくや」
     「グダグダ言わない!」
     「へぇへぇ」
     不満顔をみせつつ、それでも大人しくツナギの命令を聞き、足や手首をブラブラさせ、屈伸などをする。
     「チャラ男、アンタ、シャドーボクシングってできる?」
     「ん? 構えて殴るフリすりゃいいのか? そんくらいならできるだろ普通はよ」
     「そう、1分ぐらいやってみて」
     「んな衆人環視の中でやることでもねぇだろうによ。……1分だな? 1分以上は疲れるからやんねぇぞ? ふっ、ほっ! オラァ!」
     何もない所に拳を突き出して、チャラ男はボクシングを始めてしまった。
     「……何なのでしょうか?」
     「いやだから俺に聞かれてもな……」
     『意味不明』


     「はっ、はっ、はっ……疲れた、やめやめ」
     本当に1分ほどで根を上げ、シャドーをやめてしまうチャラ男だった。
     どかりとソファに座り背もたれに寄りかかる。
     うっすらとだが汗をかき、息も上がっているところを見ると、かなりの運動不足らしい。
     「やっべぇなオレ、体力ねぇわ、マジねぇわ、こりゃ記憶がなくなる前は引きこもりのニートだったなこりゃ」
     「その風体でヒキニートとか何の冗談だ」
     「そこらへんの街角で毎日ナンパ繰り返してそうよね」
     「あ~~無理無理、今分かったわ、確信したね、ヒッキーだわ、まちがいなくヒッキー、もう1歩も動きたくねぇ」
     空気を流すようにTシャツをパタパタとしながら肩をすくめる。
     『で、これは何だったの?』
     ――無口がスケッチブックを向けたところで、ようやく本題に入れそうだった。
     「決まってるじゃない、アタシとチャラ男の症状が違うモノだって確認したのよ」
     「今ので、か? ただシャドーボクシングしてただけじゃないか」
     思わず聞き返すと、ツナギは自信満々に胸を張って答えた。
     「今ので、よ。詳しくは言えないけど、少なくともアタシは今のチャラ男の動きを真似できない病気なの」
     「おいおい、今のって、シャドーボクシングがか? どんな病気だよそいつぁ」
     「だから詳しく言っちゃいけないんでしょうが――でも少なくともアタシとチャラ男の病気が違う症状ってことが確信できたわ」
     「ん~~? シャドーができない病気……? いや、待てよ……ははぁ、なるほどなるほど」
     得心いったのか、チャラ男がブツブツと呟きながらしきりに頷いている。
     「今の説明で分かったのか?」
     「まぁな、例えばの話、ツナギちゃんが『シャドーボクシングできない病気』だったら、意図は分かるだろ?」
     「チャラ男さんはできてツナギさんはできない、というわけですか」
     『あまりにも簡単』
     「……待ってくれ、なんだそのピンポイントな病気は」
     「あ~~、お前さんにゃわかんねぇかもだけどよ、オレは自分の病気が割かし突拍子もねぇもんだって知ってるから、んな病気もアリっちゃアリな気もするぜ?」
     「……」
     「メイドちゃんや無口ちゃんだって、自分のこと考えりゃ、そういうことも在りうるって思えるんじゃねぇのか?」
     1人だけ理解しがたい表情を浮かべる中、他の面々は頷いていた。
     「そうですね……はい、そんな病気があっても不思議ではないと思います」
     『同意』
     「まじか……?」
     自分の症状を知らない男は背筋が寒くなる。
     自身がどんな病魔に晒されているのか、全くの不明なのだから当然だ。 
     「シャドーボクシングができないってどういうことなんだ、それは何の病気、というよりそもそも『病気』と言えるのか?」
     「おいおい、別にツナギちゃんがボクシングできねぇって決まったワケじゃねぇぞ」
     「でも言っただろう、『アタシには真似できない』、と」
     「思い返してみろよ、オレはその前にも色々としてたじゃねぇか、ジャンプとかよ?」
     「……あ、いや……そう、だな」
     「それこそ『ジャンプできない』病気かもしれねぇ、って、そういうこったろツナギちゃん」
     「アンタ、チャラい癖にそこそこ頭はキレるわよね」
     「お褒めの言葉、あんがとさん」
     「でも――何かしら想像がついてしまいませんか? チャラ男さんがしたことってそこまで多くはありませんよね」
     「あらそう? それじゃ聞くけど、チャラ男、ジャンプする時どこ見てた?」
     「あん? 上っつか天井だろ、そりゃ」
     『天井、それから足元も見てた』
     「無口ちゃんはよく見てんなぁ、ま、そこら辺だな」
     「アタシが『上を向けない』病気って言ったら、アンタ信じる?」
     「あ、なるほど、チャラ男さんが無意識にした行動も含まれるわけですね」
     話し合うツナギたちを尻目に、男は話についていく事が出来ない。
     あまりにも特異な症状をさも当然の様に話し合う4人に、奇妙な疎外感を感じた。
     「……」


     「ってワケで、オレとツナギちゃんの病気が違うモノだってのは分かったな」
     「あとは私と無口さんと――」
     「そこの間抜け君ね」
     「おい」
     余りにも酷い呼称に思わず声を上げたが、無視されてしまった。
     無視されるのも仕方がないといった所か、男1人だけついていけていないのは誰が見ても明らかなのだから。 
     「メイドちゃんはどうよ? どうにかして他の人と症状が違うとかわかんねぇか?」
     「私ですか……」
     メイドが少し考えたように俯き、そして――
     「――そうですね、『皆さんの部屋には他に誰かいましたか』?」
     発した言葉に、場の雰囲気が一瞬で変わる。
     特にチャラ男の変化は劇的だった。
     その変化も当然だろう、メイドの質問は言い代えればそれすなわち『自分の部屋には誰かがいる』ということである。
     「……こいつぁ、また変な質問だな、まるでメイドちゃんの部屋にゃ誰かが居るみてぇな口ぶりだぜ?」
     「ちょっとチャラ男」
     「ツナギちゃんはちと黙っててくれや、オレはメイドちゃんに聞いてんだからよ」
     敵意をむき出しに、チャラ男がメイドを睨む。
     「いえ、私の部屋にも誰かがいるということはありません。なんでしたら、今すぐ私の部屋の中を見てもらっても構いません」
     そう言って黄緑色の鍵を取り出し、他の4人を見渡す。
     目線の最後はチャラ男を真っ直ぐ見つめていた。
     「……いんや、睨みつけて悪かった、そこまで言うなら信用するぜ」
     チャラ男の雰囲気が元のそれに戻る。
     「それに男のオレが女の部屋に入るってのも、こんな状況じゃアレだしな」
     「こんな状況じゃなかったら喜んで行きそうよねアンタ」
     『変態』
     「なんつーか、オレの好感度はどうしてこんなに低空飛行してんだろなぁ?」
     「知るか」
     ふぅ、と緊張をほぐす様にツナギが溜息をつく。
     「――いいわ、確認だけしといても減るもんじゃなし、アタシと無口ちゃんとで確認しにいきましょ」
     『了解』
     「勿論、メイドちゃんも一緒でいいわ、アタシたちもメイドちゃんの部屋を無闇に漁ったりもしたくないし」
     「わかりました、どうぞついてきて下さい」
     そういって3人が立ち上がる。
     向かう先は黄緑色のドア。
     男2人はテーブルから女性陣を見送り、メイドたちはドアを開け、扉の向こうへと消えていった。


     「どう思うよ相棒」
     「誰が相棒だ、誰が」
     「決まってらぁな、お前さん以外に誰が居るんだよ?」
     肩をすくめてチャラ男が呆れた様に苦笑する。
     「男2人しかいねぇみたいだからよ、ツるむ相手なんざ決まってるようなもんだろ」
     「……」
     部屋の中には2人だけ。
     ツルみたくない、こいつとだけは絶対心を通わせたくない、と心底思った。
     「『どう思う』、とは?」
     「ん~~、まぁぶっちゃけた話、どの子が1番好みのタイプよ?」
     「……お前、こんな状況で色恋沙汰をやっている場合か?」
     今度は男の方が呆れる番だった。
     何のことかと思えば、好みのタイプときたもんだ。
     「わ~ってねぇなぁ相棒、こんな状況だからだろ、最後にモノ言うのはそういう直感なんだぜ?」
     「そんなこと分かりたくもないな――そもそも記憶喪失の人間に、好みとか聞かれても判断に困るだけだ」
     「ふむふむ、いや、そういうヤツだとはおもったけどさ、じゃあ言葉を変えてやるか」
     すっと、チャラ男の目が細められる。
     「誰が『1番信用できる』と思うよ?」
     「……」
     最後にモノ言うのはそういう直感。
     チャラ男が聞きたいことは、そういうことだった。
     「……随分と穏やかな話題じゃないな、それは」
     不穏な空気が2人の間に流れる。
     誰が1番信用できる人間かという問いは、つまり誰が1番怪しいのか、ということである。
     「誰かあの3人が嘘でもついているとでも?」
     「3人じゃなくて、相棒も含めりゃ4人とも疑わしいとは思っちゃいるけどよ。誰か1人くらいは味方にしねぇと始まんねぇだろ」
     「……俺は嘘なんてついていない」
     「だろうな」
     チャラ男が足を組み直す。
     「多分、この中で1番信頼できるのはお前さんだ。PCも見ずに部屋を飛び出してきたとか怪しすぎて、逆に信じるしかねぇ」
     「悪かったな、怪しすぎで」
     「自分の病気の症状を隠すにしても、もうちっとまともな嘘をつくだろうしな」
     「俺にも、そして皆にも、嘘をつく必然性がないと思うが」
     「いやぁ割と嘘をつかなきゃならねぇ場合もあると思うぜぇ?」
     「ないだろう、わざわざ嘘をつくメリットがどこに――」
     「例えば、『誰かをどこかに閉じ込めちまう』病気だったり、とかよ?」
     「……」
     言葉がとまる。
     奥歯に力が入ってしまうのを男は感じた。
     だから、なんなんだ、その病気は。
     「そいつのせいでオレらはこんなトコに閉じ込められちまった、さてオレらはここから早く脱出したい、じゃあ、相棒だったらどうするよ?」
     「……どうもしない、病気なら仕方がないだろう」
     「へぇ? 食料は限られてるんだぜ? 皆で仲よく飢え死にでもすっか?」
     「……」
     「んな怖い顔で睨むなって、オレだってそういう可能性は無ぇ方がいいんだからさ」
     嘆息をつき、チャラ男が天井を見上げる。
     「人を殺してまで、ここから出ようって気もねぇからな」
     「……現時点で、1番信用できないのは、チャラ男、お前だ」
     「そう、そうなんだよなぁ、立ち位置をミスっちまったっつうか、マジ困ってんだよ」
     ボリボリと本当に困ったような表情で、頭をかくチャラ男だった。
     「まぁこういう性分なんだからしょうがねぇんだろうけどな」
     「困っている割には随分と気楽そうだな」
     「いやいや実はこう見えてかなり必死だぜ? 5人でこういう話の流れになったら、真っ先にオレが孤立しそうだからよ、相棒だけでも仲間に引きいれようって、そういう魂胆」
     「断ると言ったら?」
     「それでもかまわねぇさ、そん時はそん時だ、足掻けるだけ足掻いて死んでやらぁな」
     両手を上に向けておどけた様に笑うチャラ男だったが、その目は笑って居なかった。
     「――けどよ、相棒。『そういう病気』がありうるってこと、ちっとは考えておいた方がいいと思うぜ?」
     チャラ男は、黄緑色のドアに視線を向ける。
     「誰かを助けてぇけど、誰も犠牲にしたくねぇとか、子供のワガママだろ」
     「……」
     「で、相棒は誰を選ぶのかくらいは同じ男として知っておきたいじゃん? 誰よ? ツナギちゃん? 萌え心をくすぐるメイドちゃんか? 大穴でかなりロリ入った無口ちゃん? いやぁ相棒が誰とくんずほぐれつすんのか楽しみだわ」
     「お前、何かにかこつけてそういう話がしたいだけなんじゃないか……?」


     時間は少し遡る。

     メイドの部屋に3人が入ってくる。
     主であるメイド、それに続くようにツナギと無口、扉は独りでに閉まった。
     「うわ、なにこれ」
     部屋の中を見るなり、ツナギが驚いたように声をあげる。
     目立つ、というよりそれ以外に見るべき物が無い――メイドの部屋の壁は一面本棚になっていた。
     溢れるほどの本と本、実際に床まで溢れた本が2~3冊ほど転がっている。
     『凄い量』
     「えっと……皆さんの部屋はこうじゃないんですか?」
     「いやいやいや、こんな本ばっかの部屋じゃないわよ」
     『少なくとも本はなかった』
     「そう、なんですか……」
     「ちょっと読んでみても――って、勝手に漁らないってアタシが言ったんだっけ、ゴメン」
     「いえ、そんな、あの、でも、あまり読まないで頂けると助かります」
     「了解、ベッドに座っても良い?」
     「あ、はい、そのくらいなら別に断らなくて頂いても良いですよ」
     「サンキュ、じゃ無口ちゃんとメイドちゃんはベッドに座って、アタシは椅子でいっか」
     そう言って早々に椅子に陣取るツナギだった。
     遅れて無口がベッドに、その隣にメイドが座り、3人は相対する。
     「――で、アイツ怪しくない?」
     「え……? あの、部屋の中を確かめるんじゃ……」
     唐突に切り出してくるツナギに、メイドは困惑するしかない。
     「そんなの口実に決まってるじゃない、こうでもしないと3人で話せないでしょ」
     「は、はぁ……あの、無口さんもそういうつもりで?」
     『確認作業だけなら私は必要ない』
     「ま、そういうこと。メイドちゃんがどういうつもりであんな質問したのかは分かんないけど、部屋に誰か居るだなんて多分誰も思って無いわよ?」
     『すぐバレる嘘は意味がない』
     「はぁ……」
     メイドはあまり納得が行かない様子だった。
     「あの、アイツ、とは誰のことですか?」
     「決まってるじゃない、鍵を持ってないアイツよアイツ、間抜けクンのこと」
     『彼が怪しいと?』
     「だって普通そうでしょ、目覚めたら知らない部屋で、記憶喪失で、部屋の中を調べようとしなかったとか、どう考えてもおかしいわよ」
     「えっと、私もまず室内に何かないか調べたので反論はできませんが……」
     「でしょ? 無口ちゃんもそうよね?」
     『調べたことは確か』
     「ほらやっぱり。間抜けクンが1番怪しいわ、絶対に何か隠してるわよアイツ」
     「は、はぁ……」
     「見てなさいよ、化けの皮を剥がしてやるんだから――あ、ごめん、ちょっとお手洗い借りて良い?」
     「あ、はいどうぞ、そちらです、わかりますか?」
     「大丈夫大丈夫、部屋の間取りは似たり寄ったりみたいだしね」
     ツナギは立ち上がりトイレへと入っていった。
     無口とメイドが2人、取り残される。
     「……あの、無口さんもあの人が怪しいと思いますか?」
     『無口ちゃんで良い』
     「……無口ちゃんはどう思います? ツナギさんはああ仰っていますが、あの人が嘘をつくような人には見えません」
     『惚れた?』
     「い、いえ、そういうことでなく! 断じてそのような感情ではなく!」
     必死に手を横に振り否定する様を見るに、惚気とは行かないまでも好意のようなものはあるのだろう。
     そう判断して無口はスケッチブックに筆を走らせた。
     『私はどちらかといえば、チャラ男の方を疑っている』
     「チャラ男さん、ですか……?」
     こくりと頷き、無口は続ける。
     『貴方は誰かを疑うのは嫌い?』
     スケッチブック越しに、無口はじっとメイドの目を見る。
     澄んだキレイな目だと、メイドは思った。
     「……はい、あまり疑いを持って接したくはないです」
     「……(こくり)」
     「莫迦と思われるかも知れませんが、こんな状況で――いえ、こんな状況だからこそ、争っている場合ではないと思うんです」
     「……」
     無口は2~3秒ほどメイドを見つめた後、すっと視線を逸らした。
     そして、『貴方はそれで良いと思う』と、それだけを書いてメイドに見せた。

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